古民家再生プロジェクト(その2) -設計スタート-

―設計スタート―

 現場での打ち合わせ。担当の小林さん(彼は今回のプロジェクトにより大阪から美波町に移住!)から、玄関入ってすぐ右の和室を開放的にしたい(具体的には土間と同じレベルにしてオープンにしたい)という意見が出た。私自身も全くそのように考えていたのですぐに賛成、この空間を今回の計画の最重要ポイントと位置付け、「サロン」と名付ける。簡単な打ち合わせや休憩をしたり、地域に開放して地元の人たちとの交流の場にもなる、なおかつ玄関を入ってまず最初に目にするデザイン的にも重要なポイント。床は出来るだけ新しさが感じられる材料として大判の真っ白な大理石調タイル。既存の土間とはあえて同化させずに、少し独立性をもたせるためにレベルを150㎜上げた。壁はもう直感的にブルー。美波町の美しい海、古民家の大家さんである徳永さんの会社「南海建材」のCIをイメージさせる色。青というよりはどちらかというと碧のイメージ。なんとなく方向性は決まった。

 続く囲炉裏の間、ここは出来るだけこのまま残したい。畳は入れ替えて、あと建具をどうするか。既存のままでいくか、新設するかの検討。後回し。

 奥の執務室は出来るだけ明るく機能的に。壁は現状の土壁の上に真っ白な珪藻土を上塗り、床も同じく真っ白な現代的なフローリングで決まり。照明は歴史を感じさせる天井に対しスタイリッシュなLEDのスポットライト。付属する縁側は内部とは対比的にダークな色目のフローリングでと考えていたが、家主の徳永さんが「せっかくの古民家なんだから、新建材は出来るだけ少なくしてはどうか?」との提案があり、それもそうかと杉の縁甲板に現場塗装とした。

 床の間のあり方でちょっと悩む。現地スタッフが毎日花を生け替えてくれるか?否。季節に合わせて掛け軸を変えてもらえるか?否。どうせならいっそのこと全く違う材料でオブジェ的に仕上げるか??しかしこの限られた執務空間に恰好だけで機能的に意味がないものを提案する訳にもいかない。日々状況にあわせて思うような演出が自由にかつ簡単にできて、機能的で、見た目にもインパクトのある提案はないか?IT企業ならではの「シカケ」は出来ないか?と悩んだところで「デジタルサイネージ床の間」を思いつく。早速鈴木社長にプレゼンしたところ、これを通信モニターとして大阪本社とバーチャルに繋げWEB会議等にも有効活用できる、という事でめでたく採用となった。

 囲炉裏の間に戻って建具の検討。障子は障子でいいのだが、何かないか?じっと眺めていたら障子のマス目がコンピューターのキーボードに見えてきた。キーの配列をイメージしながら担当の原さんが障子の割り付けを入念にデザイン、さらに障子紙を裏表凸凹に貼ることによって「キーボード障子」が完成した。もう1つ、執務室へ通じる建具、これはフスマ。ここは囲炉裏を囲って酒でも飲みながら商談をする時の背景になる重要なポイント。初期のイメージではバーコードをあしらった幾何学的なグラフィックでいこう考えていたが、もう少しデザインに奥行が欲しい。ここでたまたま少し前に友人とAR(拡張現実)の話をしていた事を思い出す。単なるグラフィック柄でなく、携帯端末を通じてさらに情報が広がる「シカケ」。ここは鈴木商店の本業範囲なので一旦お任せすることにした。